劇団意識と役者育成
金 松本さんとこは、(公演ごとのオーディションがあったりして)「役者は劇団員ですよ」っていうような意識でやってる風には、あまりみえない。
松本 そんなことないよ。劇団意識は強いですよ。
金 あっ、そう?
松本 特にウチの場合は、よそに客演は一切してないんでね。したらあかん言うてないけど、うちは特殊なやり方してるから、日常的な訓練とかも。だからそういう意味では、凄く劇団意識は強いんちがうかなあ。ただね、慣れてくるとね、舞台に対する緊張感とか新鮮味が無くなってくるんで、まあ、それが一番、毎回気をつけてる。
金 そうやね。
松本 毎回々々、やる場所ちがうわ、方法論もぼんぼんぼんぼん新しいこと考えてやるんでね、前使うたような手は無理なんで、まあ、あまり危険なとこには嵌り込んでないかなと思う。今回の『聖・家族』も変なことやってたでしょう?
金 新しい試みでは、身体、だいぶん出してるなあと思ったけどさ。
松本 そうそう。ああいうの、すごい手探りで作ってるから、今までの手練手管でやれないのは、皆解ってるんで。
金 どんどん、そういうものを与えて、慣れんようにしていくというのが、演出としても一つの策。
松本 そうして創るのが一番楽しいことやから。役者は、本番の舞台が一番の稽古場なんでね。それで練っていく時間があったら、絶対、1年間やらしたら、身体も変わるやろうし、生活の仕方もはっきりしてくるし。うちの子も、人にもよるけど、もうアルバイト嫌やって。 言ってみたら、もう一生一日中白塗りでいたい、という(笑) まあ、そうなったら、ステージで稼がな仕方ないからね。そのへんもあって、ある程度は前衛を捨てて、大衆性もないといかんやろう、と。
金 えらい親心やな、前とは違って。意外と役者はかわいく、面倒みてるんや。
松本 というか、僕も役者やってた時があったからね。確かにね、作品創っている時に雑事は嫌や。やっぱり作品づくりに専念したいからね。それは、どういう作品創りかっていうと、僕の要求するんは、普通の生き方してたら稽古場では面白ない。やっぱりね、お金持ちののんびりした人は、ええ映画観れるし、ええ舞台も観とるし、やっぱり引き出し多いんや。観てるもんとか、体験しとるもんとかね、貧しいとね、本当小さくなってくるから、かわいそうやねん。
金 ほんで?
松本 豊かにしてあげたい。オペラなんかもあんまり行けへんしな。観る贅沢が、若い子はできてない、観る事に貧乏や。食べるためだけにお金使ってるんかなあ。芝居のお客さんともしゃべるけど、「あの映画みた?」とか聞かれて、「あ、それ観たいんですけど観れないです」とかね。だから、引き出しが少ないいうか。その辺のことを考えたるとね、いい役者になるためには、やっぱりライブラリをちょっと増やしてあげたいよね。
金 うーん、そういう目論見が。
松本 こういうことをやってると、勉強する場所というのは本当に難しいですよね。僕の時代なんかは、わりかし、お金ないけど、ポンとそばにいいものがあった記憶がある。例えば、横でサルトル議論してる奴がおったりね。それを横耳で聞いとって、頭に入ってきて、それを体験したような。まあ擬似的やけどね。黒澤映画も、全部観てる訳じゃないけど、1本くらいはちゃんと観とって、だいたい何かこうわかったようなつもりになるとか。今の若い子は、いいものとの出会いがない。全部テレビやね。
金 なるほど。だから、意外と、その育てるというような感覚で。松本さんが組織って言う意識で維新派をやっているようには、今まで見えなかったんで、意外な話やわ。
プールするもの
松本 もう40年もやってたら、いろいろ考えてます。
金 40年やってきて、やっぱり垢がついたとかさ、これが秘訣やったとかは?
松本 秘訣じゃなくて、劇団じゃないと創れないものがあるしね。劇団ゆえに実験的なことがやれる場所がある。プロデュース公演だと、そういうのはなかなかできない。例えば、今年実験的な事をやってて、これが劇団続けとったら、3年くらい後の作品に生きてくるとかね。うちの場合、ほとんどそうね。今やった事、次すぐには行かんから。もう即挫折。それが忘れた頃に、あれは、こんなんやったけど、今もう1回やったら面白くなるかな、とかね。たまたま季節柄が合ったりとか。作曲がミスマッチやったんが、よくなったりね。それってやっぱり劇団じゃないとできないよね。そういうのが意外とプール出来とって、皆覚えとってくれて。集団が持続する事によって、もう1回倉庫から出してこようや、みたいな感じのこと。素材的に置いておけるのは、劇団という倉庫がないと無理やね。
金 その劇団の出来てきているプールって、知恵なのか、人なのか。
松本 口で言えるようなことやったら、僕のワープロに入れとったらええけど、そうやなくて、皆のからだに残っている部分やないとあかん。あの時のあんな感じ、という言葉にしにくいもの。記憶しているからだがおらんと。
(まだまだ続く。つづきは情報誌IMAJU vol.42本誌にて)