ここに3年がかりで製作した舞台の幕が開きます。いや、国際交流基金による視察旅行で、劇団態変の金満里さんに出会った時を含むと、4年になります。マレーシアの障害者のことを考えるたび、金さんのオフィスでの会談のことが私たちの頭にいつまでも残る記憶となりました。アクターズスタジオが障害者と活動してきた経験は、金さんが大阪で実に長い間やってこられたこととは比較にできないものです。大阪のみならず、世界の国々においてもです。そして私たちはひとつの的に立ち戻りました。金さんがKLに来て、彼女自身の表現をここの障害者に観せること、そして共に創造すること、をやってもらわないといけない、と。
　この3年企画は、金さんと国威交流基金、アクターズスタジオの強い決意によって初めて可能であったと思います。関わった全てのみなさんに感謝します。特にナラ。彼女の仕事への、そして障害者への愛が、彼女をより高い到達点へと導いてくれればと思います。事実、そうなるだろうと確信しています。
　マレーシアの演劇をサポートいただき、ありがとうございます。

ファリダ・メリカン＆ジョー・ハシャム
アクターズスタジオ製作総指揮/芸術監督

　ここに「記憶の森」を公演できることを誇りに思います。実に大変な仕事であり、意義深い作品であります。主催者から役者、ボランティアスタッフまで全ての側面から、分け目ない関わりが必要とされました。この企画が続行不可能のように見えた局面では、すばらしいサポートと理解、膨大な忍耐と真摯な友情により、乗り越えることに成功しました。この3年企画は、面白いユニークな身体表現作品として、ついに最終局面を迎えます。
　この企画は、誰にとっても偉大な存在であります。まずは、劇団態変に感謝したいと思います。この企画に対し、途方もなく多大な責務を果たしていただきました。劇団代表である金満里さんは、我々以上に、考え、こちらに赴き、実働にあたりました。彼女は、自身の障害を宝物と考え、健常者には創り出せない、美しい芸術へと転化させることができるとしています。そして、この素晴らしい思想を長い間かけて浸透させることに成功してこられました。
　このプロジェクトに関わっていただいた関係団体にも心より感謝いたします。マレーシアの女性家族地域開発省、ビューティフルゲート、バンギ職業訓練施設、スパスティックセンター等の協力をいただきました。そして、役者の家族の皆さんにも寛容なご理解と、ボランティアスタッフによる有用な助力も、いただきました。
　マレーシアと日本の障害の役者とボランティアスタッフが、美しい演劇作品に向かって、効果的にコラボレーションできたことが見てとれます。障害そのものを大事にし、疲れを度外視して、時間をかけて何ヶ月も取り組みました。その結果、一般の聴衆に障害は価値ある、与えられた美であると証明する舞台作品を創り上げたのです。
　主催者として、私たち国際交流基金とアクターズスタジオはこの企画から多くのことを学び、皆様に感謝いたします。障害者と共に仕事する機会を得て、完全であることと生きることについて、新しい見方を教わりました。障害は完全なものが欠けているのではなく、実は、この世の特別な人たちにのみ神が与えた、美しい才能なのです。この意義深い企画がここの障害者たちによる芸術グループを育てる種となり、将来、マレーシアの他の多くの団体が支援する、より良い作品や企画に育つことを願っています。

下山雅哉
国際交流基金クアラルンプール文化センター所長

　身体障害者による身体表現をご覧になった観客の皆様に受取っていただきたい事の一つに人間存在の多様性という観点があります。良く動く身体、均整のとれた美しい身体といった従来の画一的価値観から解放された時に、我々は人間という存在の奥深くから立ち昇る美の多様なる豊饒さに出会う事ができます。逆に多様性を認めない価値観は、身体障害者の身体を無価値なものとして葬り去るでしょう。
　ここで世界に眼を転じてみると、強く豊かな国に発する文化・価値観が世界を画一的に塗りつぶし、世界の多様さを根こそぎ破壊していく流れがあります。これは危機的状況です。私なりに何とか未来へ向けての答えを出さねば、という思いに駆られてこの作品を作りました。
　塵魔王は土着の森に侵入し何もかにもを自分の色に塗りこめてしまおうとする存在です。森の木の根から生まれた精霊達は森の多様性を守り抜こうと、ありとあらゆる手段を使って魔王に闘いを挑みます。
　願わくば、多様な価値がキラ星の如く輝いて世界を覆っていきますように。

金満里