1. 態変身体表現の新たなターニングポイント

 劇団態変は身体障害者の障害そのものを表現力に転じた身体表現を展開してきました。これは従来の身体表現の枠組みを揺るがす前衛的表現として受け止められてきました。
 『銀河叛乱'89』(1989年)が第一の転機を成す作であり、台詞を廃し具体的説明的なものを廃した抽象的身体表現として、身体障害者の身体のみで象徴的暗示的に宇宙観を表現するスタイルを確立していくこととなりました。
 第二の転機として、2001年にベルリンで初演した『マハラバ伝説』より、登場人物を描き分けストーリーのある物語を取り込んだ抽象的身体表現という挑戦を開始しました。身体だけで展開する抽象的象徴的表現で物語を紡ぐ試みは一定の成果を挙げ、観客にとっては、物語の筋を追いつつ、前衛的身体表現の美を味わうことができるよう、作品として洗練を重ねて参りました。このスタイルにて、歴史上実在した人物を扱った作品、世界史を身体表現で描き切った作品、なども達成することができました。
 物語という枠組みの助けを借りて、障害を表現に転じた態変の抽象的身体表現は、複雑な感情表現をもこなすところまで深化を遂げてまいりました。
 そこで今回、再び枠組みを外し、規定・制約の無い時空の中で態変の身体表現を自在に展開してみようとします。テーマを極めて抽象的な「喰う」とし、身体表現に「無」「空」を取り込んでいく試みとなります。(詳細は、芸術監督・金満里の文章をご参照ください)


2. 第一線で活躍する音楽家・美術家の参加

 音楽に伊東乾氏、舞台美術に塚脇淳氏を迎え、身体・音楽・美術の三つ巴の舞台となります。

 指揮者・作曲家の伊東乾氏はTV番組「新・題名のない音楽会」の音楽監督で有名ですが、音楽制作に脳認知科学を体系的に導入し、音楽の基礎を再検討してこられた業績において重要な音楽家です。今回はピアノの生演奏も織り交ぜ、クラッシック曲、氏のオリジナルの現代音楽、を奔放自在に披露してくださる予定です。心地よく身体に寄り添うのではなく、時には全くの異物として独自の存在感を放つ音楽が、この作品を構成します。

 「喰う」という生物的な趣のテーマへの対比として、舞台美術には硬質な金属の作品をと考えておりましたところ塚脇淳氏と出会うことができました。氏は熱を加えることにより自在に変化する棒状の鉄材をひたすら叩くという手法で抽象彫刻作品を製作してこられました。本作では氏の初期の巨大な鉄作品が再び磨かれ舞台に登場します。硬質な鉄は柔らかい身体の対極にありながら我々の生活と切っても切り離せない関係にあると言えます。そのような鉄が舞台上で身体と対峙します。



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